8種制限 — 業者自ら売主の契約で買主を守る8つのルール
この章の主張
- 8種制限は、業者が自ら売主で、買主が非業者のときだけ働く買主保護のルール群。
- 8種のうち6種は数字を覚えれば判定できる(2割・5%・10%・1,000万円・8日・2年・3割・30日)。
- 業者間取引や媒介・代理の場合は1条も適用されない、ここで間違えば失点が連続する。
1. 8種制限の適用範囲 — 業者自ら売主 × 非業者買主のみ
業法第78条第2項は、業者間取引には8種制限の適用がないと明文で定めます。つまり8種制限が働くのは、売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない契約に限られます。媒介・代理は売主・買主どちらの立場でもないので、ここから外れます。
業法第78条第2項: 「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」(e-Gov 業法第78条)
1.1 業者間取引には適用なし — 業法第78条第2項の構造
買主が業者なら、8種制限は1条も働きません。過去問で「業者A自ら売主、買主Bも業者」を見たら、その瞬間に手付額・賠償予定・契約不適合特約のどれも自由に決められる構造になります。媒介・代理の場合も同じく非適用ですが、こちらは業者が売主の立場に立たないため当然です。
1.2 8種の一覧 — 名称暗記の優先度
8種は条文順に第33条の2・第37条の2・第38条・第39条・第40条・第41条・第41条の2・第42条・第43条で並びます。第41条と第41条の2は手付金等の保全という1つの論点でまとめて学べるので、頭の中では7つの論点 + 保全だけ未完成と完成で分かれると整理すると過去問の出方に合います。
2. 自己所有でない物件の売買制限 — 第33条の2
業法第33条の2は、業者が自ら売主として自己所有でない宅地建物を売る契約をしてはならないと定めます。理由は単純で、自分の物でない物を売っても引き渡せず、買主が損をするからです。例外は2つだけ、所有者との取得契約が確実に成立している場合と、未完成物件で手付金等の保全措置を講じている場合です。
2.1 例外① 取得契約締結済み — 停止条件付き等は除く
業法第33条の2第1号は「業者が当該物件を取得する契約(予約を含む)を締結している」場合を例外としますが、停止条件付き契約は除外と明記されています。停止条件は条件成就まで効力が発生しないため、業者が確実に所有権を取得できるとは限らないからです。過去問では「停止条件付きの取得契約があるから売ってよい」を誤りと判定させるパターンが頻出です。
2.2 例外② 未完成物件で手付金等の保全措置を講じている場合
業法第33条の2第2号は、業者がまだ所有していない未完成物件を売る場合でも、第41条の手付金等保全措置を講じていれば例外的に契約できると定めます。未完成物件の売買は青田売りと呼ばれ、買主が払った手付金等が業者の倒産で消えるリスクが大きいため、保全をセットで義務付けて初めて売却を許す構造です。
3. クーリング・オフ — 事務所等以外での申込みを8日以内に撤回できる
業法第37条の2は、買主が事務所等以外の場所で買受申込みまたは契約をした場合に、書面で告知を受けた日から8日以内であれば書面で撤回・解除できると定めます。事務所等の範囲は施行規則第16条の5で限定列挙されており、業者の事務所、案内所、買主が自ら申し出た自宅・勤務先などです。テント張りの臨時案内所や買主の自宅への訪問販売は事務所等から外れます。
3.1 解除を妨げる事由 — 書面告知から8日経過 or 引渡し+全額支払
クーリング・オフができなくなるのは、業法第37条の2第1項第1号と第2号の2パターンに限られます。書面告知から8日経過したとき、または物件の引渡しを受け、かつ代金全額を支払ったとき。引渡しと全額支払のどちらか片方では妨げにならない点が頻出です。買主は書面で撤回意思を発信した時点で効力が生じ、業者は損害賠償や違約金を請求できません(同条第4項)。
4. 手付金規制 — 額の制限と性質と解約の効果
業法第39条は手付について3つのルールを置きます。第1項は手付額を代金の2割以下に制限し、第2項は受領した手付を解約手付として扱うと定め、第3項は買主に不利な特約を無効とします。手付額の超過部分のみ無効ではなく、2割を超える定めをした契約自体は2割までで有効になる点が試験で問われます。
4.1 解約手付の効果 — 履行着手前なら買主放棄・売主倍返し
解約手付の効果は民法第557条と同じで、相手方が履行に着手するまでなら、買主は手付を放棄して、売主は手付の倍額を現実に提供して契約を解除できます。重要なのは「履行の着手」の有無で、すでに着手された後は解除できなくなる点です。業者が建物を引き渡したり、買主が代金の一部を支払ったりすれば履行着手にあたります。
5. 手付金等の保全措置 — 未完成5%超 or 完成10%超で必須
業法第41条と第41条の2は、業者が買主から手付金等を受領するときに保全措置を講じることを義務付けます。基準は未完成物件なら代金の5%超または1,000万円超、完成物件なら代金の10%超または1,000万円超、このいずれかに該当すると保全が必須になります。基準額以下なら保全不要ですが、契約段階で基準を超える受領予定があるなら最初から保全を講じる必要があります。
5.1 保全方法 — 銀行等保証/保険/保管(指定保管機関)
保全方法は銀行等の保証(第41条第1項第1号)、保証保険(同項第2号)、指定保管機関による保管(第41条の2第1項)の3種類です。ただし保管が使えるのは完成物件だけで、未完成物件は保証または保険の2択になります。未完成物件は完成物件より買主リスクが大きいため、保管を許さず外部の保証・保険を強制する構造です。
5.2 保全不要の場合 — 買主への所有権移転登記完了
業法第41条第1項柱書きは、買主に所有権移転登記がされた場合または買主が所有権の登記をした場合に保全を不要とします。買主が登記名義人になれば物件は確実に買主のものになり、業者倒産でも保護されるからです。基準額以下(未完成5%以下かつ1,000万円以下/完成10%以下かつ1,000万円以下)も保全不要です。
6. 損害賠償額の予定・違約金の制限 — 合計で代金の2割上限
業法第38条は、業者自ら売主の契約で損害賠償の予定額と違約金を定めるときに、合算して代金の2割を超えてはならないと定めます。2割を超える定めをしたときは契約全部が無効になるのではなく、超える部分のみ無効となり、2割までで有効として処理されます。買主から見れば負担の上限が読める仕組みです。
6.1 2割超の定め — 超過部分のみ無効
過去問の引っかけは「2割を超えて定めたから特約は全部無効、よって民法に戻り損害額を立証して請求する」というパターンです。正しくは超過部分のみ無効で、2割までは予定額として有効ですから、業者は2割の範囲なら買主に損害額を立証させずに請求できます。買主から見れば「2割までは確定で取られる」、業者から見れば「2割を超えては取れない」、両側からの理解が要ります。
7. 契約不適合責任の特約制限 — 引渡しから2年以上なら有効
業法第40条は、種類・品質に関する契約不適合責任について、民法の原則より買主に不利な特約を無効とします。ただし引渡しの日から2年以上となる通知期間の特約は例外的に有効と定めます(同条第1項)。民法第566条の原則は「買主が不適合を知った時から1年以内に通知」ですから、業法は時期を引渡しを基準に前倒しする代わりに、買主から見て確実に2年は保護される期間を確保する仕組みです。
7.1 違反特約は無効 — 民法原則に戻る
業法第40条第2項は違反特約を無効と定めます。たとえば「引渡しから1年に短縮する」「売主の責めに帰すべき事由がある場合に限る」といった特約は全て無効です。無効になると業法のルールは適用されず、民法第566条の原則(知った時から1年)に戻ります。業者は逃げ場を作ろうとして無効特約を置くと、かえって民法の長い保護期間を背負う構図になります。
8. 割賦販売の解除制限と所有権留保 — 30日以上の催告と引渡し後の留保禁止
業法第42条は割賦販売における契約解除について、30日以上の相当期間を定めた書面催告とその期間内の不履行を要件とします。これより短い催告期間や無催告での解除は買主に不利として認められません。業法第43条は、業者が物件を引き渡した後に所有権を売主に留保することを原則禁止します。割賦という長期分割払いの仕組みで買主が住み続ける物件を、業者がいつでも取り上げられる構造を防ぐためです。
8.1 所有権留保 — 引渡し時に代金10分の3超受領なら留保禁止
業法第43条第1項は、引渡しまでに代金の10分の3を超える額を受領した場合に所有権留保を禁止します。買主が3割以上払った時点で、業者は所有権を移転して登記する義務を負います。同条第2項は、代わりに業者が抵当権等の担保措置を講じてもよいと定めますが、所有権そのものを売主名義に残して登記を移さないやり方は禁じられます。
このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)
- 平成29年度試験 問27(exam_id=17 q27)— 論点: 契約不適合責任の特約制限。出典: 一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報)
- 平成29年度試験 問31(exam_id=17 q31)— 論点: 手付金等の保全措置・代金保全と未完成物件。出典: 同上
- 平成30年度試験 問37(exam_id=18 q37)— 論点: 業者間媒介と業者自ら売主の組み合わせ・8種制限の適用範囲。出典: 同上
- 令和元年度試験 問38(exam_id=19 q38)— 論点: クーリング・オフ(業法第37条の2)。出典: 同上
- 令和2年度10月試験 問40(exam_id=20-1 q40)— 論点: クーリング・オフの解除可否と書面要件。出典: 同上
本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開予定です。
参照条文
- 宅建業法 第33条の2(自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限): e-Gov 業法第33条の2
- 宅建業法 第37条の2(事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等): e-Gov 業法第37条の2
- 宅建業法 第38条(損害賠償額の予定等の制限): e-Gov 業法第38条
- 宅建業法 第39条(手付の額の制限等): e-Gov 業法第39条
- 宅建業法 第40条(担保責任についての特約の制限): e-Gov 業法第40条
- 宅建業法 第41条(手付金等の保全): e-Gov 業法第41条
- 宅建業法 第41条の2(保管による保全): e-Gov 業法第41条の2
- 宅建業法 第42条(割賦販売契約の解除等の制限): e-Gov 業法第42条
- 宅建業法 第43条(所有権留保等の禁止): e-Gov 業法第43条
- 宅建業法 第78条第2項(適用除外): e-Gov 業法第78条
- 宅建業法施行令 第3条の3(保全措置を要する手付金等の額): e-Gov 施行令第3条の3
- 宅建業法施行規則 第16条の5(事務所等の範囲): e-Gov 法令検索(「宅地建物取引業法施行規則」で検索)
- 注: e-Gov の SPA URL が変更され lawId 直リンクが失効しているため、検索ハブ経由でリンクします。Phase 2 着手前に lawId を再確定する予定です。
- 民法 第557条(手付): e-Gov 民法第557条
- 民法 第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限): e-Gov 民法第566条
- 国土交通省「宅建業法の解釈・運用の考え方」: → 国交省 解釈運用
関連カテゴリ
- 5_1 宅地建物取引業・免許 — 8種制限の前提となる「業者」「業」の定義
- 5_5 業務上の規制 — クーリング・オフが重複する一般ルール
- 5_8 37条書面 — 契約段階の書面交付ルール
次に読む
5_10 報酬関連 — 8種制限の次は、業者が受け取る報酬額のルールに進みます。
本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。