なぜ「別表」は難しいのか
法人税申告書の別表四と別表五を段階的に学ぶ
法人税申告書が難しく感じる「3つのカベ」
法人税申告書(別表)は難しいと言われます。その原因は大きく3つに分けられます。
| カベ | 突破のカギ | |
|---|---|---|
| カベ1 | 税法用語が難しい | 会計用語との対応表を覚えれば大丈夫 |
| カベ2 | 決算書とのつながりが見えない | 別表四↔P/L、別表五(一)↔B/S の対応で見る |
| カベ3 | 別表四と別表五(一)の関係が分からない | 留保所得が別表五(一)に流れるしくみを理解する |
このコースでは、Ch1〜Ch9 でこれらのカベを順番に突破していきます。まずはカベ1(用語)とカベ2(決算書との対応)を押さえ、最後にカベ3(別表四と五の連携)を攻略します。安心して読み進めてください。
0-1. 法人税は「利益」ではなく「所得」に課税される
簿記3級では、損益計算書(P/L)で「収益 - 費用 = 利益」を計算しました。この利益は、投資家や銀行に「会社がどれだけ儲けたか」を報告するための数字です。
一方、法人税(会社が国に納める税金)は、この「利益」にそのまま課税されるわけではありません。法人税が課税される対象は「所得」と呼ばれる、税務の世界で計算し直した「儲け」です。
| 目的 | 書類 | 計算する「儲け」 |
|---|---|---|
| 投資家への報告 | 損益計算書(P/L) | 利益 = 収益 - 費用 |
| 国への納税 | 法人税申告書 別表四 | 所得 = 益金 - 損金 |
「利益」と「所得」は似ているようで一致しません。なぜなら、会計のルール(企業会計基準)と税務のルール(法人税法)では、「何を収入として認めるか」「何を経費として認めるか」の基準が異なるからです。
たとえば、会計では費用として計上した交際費が、税務では「損金(経費)として認めない」と判断されるケースがあります。すると、会計の利益よりも税務の所得の方が大きくなり、納税額が増えます。
0-2. 会計の「利益」と税務の「所得」のズレ
簿記3級で学んだP/Lをもう一度思い出してください。
P/L(損益計算書)
─────────────────
収益 1,000
- 費用及び損失 600
─────────────────
= 利益 400この「利益 400」を、税務の世界では次のように計算し直します。
ここでの「益金」「損金」は、税務のルールで認められる収入・経費のことです。会計の収益・費用と大部分は重なりますが、一部が異なります。
たとえば、この例では次のようなズレがあるとします。
- 収益 1,000 のうち、受取配当金 100 は税務では「益金にしなくていい」(益金不算入)→ 益金 = 1,000 - 100 = 900
- 費用 600 のうち、交際費の限度超過額 200 は税務では「損金と認めない」(損金不算入)→ 損金 = 600 - 200 = 400
税務(別表四)
─────────────────
益金 900 ← 収益1,000 - 益金不算入100
- 損金 400 ← 費用600 - 損金不算入200
─────────────────
= 所得 500利益(400)と所得(500)にズレが生じました。このズレの正体が「税務調整」です。
税務調整の全貌は Ch1 で解説しますが、ここではまず大枠を押さえてください。
- 会計の収益だが、税務では益金にならないものがある(例: 受取配当金の一部)→ 減算
- 会計の費用だが、税務では損金にならないものがある(例: 交際費の限度超過額、法人税・住民税の納付額)→ 加算
- 逆に、会計で収益計上していないが税務では益金になるもの(→ 加算)や、会計で費用計上していないが税務では損金になるもの(→ 減算)もある
こうした「会計と税務のルールの違い」を1つずつ調整して、利益を所得に変換する作業が税務調整であり、その記録が別表四に残されます。
0-3. 別表四の役割 ── P/Lの利益をスタート地点にして所得を計算する
別表四の最大のポイントは、ゼロから所得を計算するのではなく、P/Lの「当期純利益」をスタート地点にすることです。
なぜわざわざ利益からスタートするのでしょうか。それは、会計の利益と税務の所得は大部分が重なっており、ズレている部分(税務調整)だけを加算・減算すれば効率的に所得を計算できるからです。法人税法もこの考え方を採用しています。
つまり別表四は、「P/Lの利益 → 税務調整を加減算 → 所得」という変換プロセスを記録する書類です。会計の利益計算が「適正」であることが前提となるため、まず会計のルールに従ってP/Lを正しく作成し、そのうえで税務調整を行う、という順番になります。
0-4. 簿記3級の知識との接続
簿記3級で学んだ財務諸表の知識は、別表四・別表五を理解するための土台になります。
| 簿記3級で学んだこと | 別表四・五でどう使うか |
|---|---|
| P/L: 収益 - 費用 = 利益 | 利益が別表四のスタート地点になる |
| B/S: 資産 = 負債 + 純資産 | 会計上の純資産のうち、税務上の利益の蓄積(利益積立金額)や資本取引(資本金等の額)を管理する明細が別表五(一) |
| 仕訳: 借方・貸方 | 税務調整を理解するとき、「もし税務の世界で仕訳を切ったらどうなるか」と考えると分かりやすい |
| 費用の認識(発生主義) | 税務にも似た考え方があるが、一部は損金算入の時期が会計と異なる(例: 事業税は納税申告書を提出した事業年度に損金算入) |
別表四は「P/L → 所得」への変換装置であり、別表五(一)は会計上の純資産のうち、税務上の利益の蓄積(利益積立金額)と資本取引の額(資本金等の額)を管理する明細書です。
簿記3級では「利益 = 純資産の増加」と学びました。税務の世界でも似た関係がありますが、少し注意が必要です。別表四で計算した所得のうち、会社内に留保される部分が別表五(一)の利益積立金額に反映されます。「社外に流出する部分」(配当など)は利益積立金額には含まれません。この「留保」と「社外流出」の区分は Ch1 で詳しく解説します。
なお、別表四で所得を計算した後、その所得に税率を掛けて法人税額を計算するのが別表一(一)です。「別表四で所得を計算 → 別表一(一)で税額を計算」という流れになります。別表一(一)の詳細はこのコースでは扱いませんが、全体像として「所得の計算(別表四)」と「税額の計算(別表一)」が分かれていることを覚えておいてください。
この教材では、まず Ch1 で別表四を使った「所得の計算」をマスターし、その後のチャプターで別表五(一)との連携に進みます。P/L と B/S の知識があれば、別表も怖くありません。
0-5. 会計用語と税務用語の早見表
法人税申告書では、会計で使い慣れた用語が別の名前で登場します。最初は戸惑いますが、対応さえ分かれば「同じものの別名」にすぎません。
| 会計の用語 | 税務の用語 | 登場する別表 |
|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 繰越損益金 | 別表五(一) 26行目 |
| 未払法人税等 | 納税充当金 | 別表五(一) 27行目、別表五(二) |
| 未払法人税(実額) | 未納法人税等 | 別表五(一) 28〜30行目 |
| 未収還付法人税等 | 仮払税金 | 別表五(一) |
| 利益剰余金 | 利益積立金額 | 別表五(一) I |
| 資本金 + 資本剰余金 | 資本金等の額 | 別表五(一) II |
| 費用として経理する | 損金経理をした | 別表四 |
0-6. コース全体のロードマップ
全9章で「3つのカベ」を段階的に突破していきます。
| Ch | テーマ | 突破するカベ |
|---|---|---|
| 0 | 別表の全体像 | 導入 |
| 1 | 別表四で「所得」を計算する | カベ1(用語)+ カベ2(P/L↔別表四) |
| 2 | 別表五(一)で「純資産」を引き継ぐ | カベ2(B/S↔別表五(一)) |
| 3 | 別表五(二)は税金勘定の元帳 | カベ2(租税公課↔別表五(二)) |
| 4 | 個別別表と別表四・五(一)の連携 | カベ3の準備 |
| 5 | 貸倒引当金・減価償却・圧縮記帳 | カベ3の準備 |
| 6 | 税効果会計と別表 | 応用 |
| 7 | 法人税等の納付と別表 | カベ3(別表四↔別表五(一)の連携) |
| 8 | 法人税等の還付と別表 | カベ3の応用 |
| 9 | 総合事例 | 全カベの統合 |