3枚目の財務諸表
キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)財務3表利益と現金のズレ
会社の財務状態を伝える書類として、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)はすでに学びました。BSは「ある時点で会社がどれだけの財産と借金を持っているか」を表し、PLは「ある期間にどれだけ稼いだか」を表します。しかし、この2つだけでは読み取れない情報があります。それは「実際に現金がどれだけ増えたか、何に使ったか」です。
たとえば、PLでは1,000千円の利益が出ているのに、通帳を見ると現金はほとんど増えていない。逆に、PLでは赤字なのに現金は潤沢にある。こうした「利益と現金のズレ」を解き明かすのがキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)です。CF計算書はBS・PLに次ぐ「3枚目の財務諸表」として、上場企業には作ることが義務づけられています。
この教材では、クチヒゲ商事株式会社を題材に、CF計算書を一から作れるようになることを目指します。クチヒゲさんが代表を務めるこの会社は、リンゴの販売(八百屋)が本業です。農家のアゴヒゲさんからリンゴを仕入れ、レストランのハートさんに売り上げます。
現金及び現金同等物の範囲
現金及び現金同等物手許現金要求払預金短期投資預入期間で判断
CF計算書でいう「現金」は、日常的な意味の現金よりも少し広い概念です。正式には現金及び現金同等物と呼ばれ、次の3つで構成されます。
なぜこの3つをまとめて「現金」と扱うのでしょうか。要求払預金は事実上いつでも現金に替えられます。3か月以内の短期投資も、金額が確定しており、すぐに換金できます。どれも「ほぼ現金と同じ」ものだからこそ、1つにまとめて管理するのが合理的です(連結C/F作成基準 第二一、注解(注1)(注2))。
反対に、現金同等物に含まれないものにも注意が必要です。上場株式は市場ですぐに売却できますが、株価が日々変動するため「価値変動リスクが僅少」とはいえず、現金同等物には含まれません。また、預入期間が6か月の定期預金は、たとえ決算日時点で満期まで3か月を切っていたとしても、現金同等物にはなりません。判定基準はあくまで預入時点の期間であり、残期間ではないからです(連結C/F実務指針2項)。
クチヒゲ商事株式会社の場合、現金及び現金同等物は「普通預金」だけです。簿記3級レベルではこのシンプルな構成で十分ですが、実務では上の図のような項目が含まれることを頭の片隅に置いておいてください。
3つの活動区分
営業活動によるCF投資活動によるCF財務活動によるCF
CF計算書は、現金の動きを3つの活動区分に分類して表示します(連結C/F作成基準 第二二1)。
営業CFは「本業の稼ぐ力」を表し、ここがプラスでなければ会社は自力で生きていけません。投資CFは多くの場合マイナスです。成長のために設備投資をすれば現金が出ていくからです。財務CFは借入をすればプラス、返済をすればマイナスになります。
3区分に分ける理由は、現金の増減を「なぜ増えたのか」「なぜ減ったのか」という原因別に整理するためです。「現金が500千円増えた」だけでは、本業で稼いだのか、借金をしたのか分かりません。3区分にすれば一目瞭然です。
なお、営業活動に含まれるのは営業損益取引に限りません。投資活動にも財務活動にも該当しないキャッシュ・フローはすべて営業活動に分類されます(連結C/F実務指針7項)。たとえば災害見舞金の支出や保険金の受取などです。
「利益≠キャッシュ」の3つの原因
非資金損益項目営業資産・負債の増減黒字倒産
CF計算書が必要な根本的な理由は、PLの利益と現金の増減は一致しないという事実にあります。一致しない原因は大きく3つに分けられます。
原因1: 非資金損益項目(損益に計上されるが現金は動かない)
代表例は減価償却費です。100万円の配送用トラックを購入したとき、現金は購入時に一括で支出します。しかしPLでは、トラックの耐用年数(たとえば5年)にわたって毎年20万円ずつ費用を計上します。2年目以降の減価償却費20万円は「費用としてPLに出てくるが、現金は1円も出ていない」のです。こうした項目を非資金損益項目と呼びます。「費用」だけでなく、固定資産売却益のように現金を伴わない「収益」も含まれます。
原因2: 営業資産・負債の増減(損益の計上と現金の受払いのタイミングが異なる)
クチヒゲ商事株式会社がハートさんにリンゴを1,000千円売り上げたとします。PLには売上1,000千円が計上されますが、掛売りなら代金はまだ受け取っていません。売上は「取引が実現した時点」で計上されますが、現金が入ってくるのは「債権を回収した時点」です。このように損益の計上タイミングと現金の受払いタイミングにはズレがあり、売掛金が増えた分だけ「利益は出ているが現金は手元にない」状態になります。逆に、買掛金が増えれば「費用は計上したが現金はまだ出ていない」ため、利益よりも多くの現金が残ります。
売上が急成長している会社ほど、売掛金と在庫が膨らみ、利益と現金のズレが大きくなります。利益が出ているのに現金が足りず倒産してしまう「黒字倒産」の原因はここにあります。
原因3: 投資・財務活動(PLに出ないがCFに影響する)
設備の購入、借入金の返済、株式の発行——これらの取引はPLの利益には影響しませんが、現金は大きく動きます。たとえば銀行から3,000千円を借りれば現金は3,000千円増えますが、PLの利益はゼロのままです。
この3つの原因を整理するのが、CF計算書の中核的な役割です。この3つの原因がStep 2〜5で具体的に体験できます。原因1(非資金損益項目)はStep 5の減価償却費で、原因2(営業資産・負債の増減)はStep 2の運転資本で、原因3(投資・財務活動)はStep 1・3・4で登場します。今は全体像を把握できれば十分です。