3-0. 導入 — なぜ貸付をするのか
Step 2で営業を開始し、クチヒゲ商事株式会社の手元現金は潤沢になりました。設立出資3,000,000円に加えて毎期の営業キャッシュ・フローが積み上がり、当面の運転資金を差し引いても余裕があります。
このまま普通預金に寝かせておいても利息はほぼゼロです。そこでクチヒゲさんは、取引先のアゴヒゲさん(農家)に対して余剰資金を貸し付けることにしました。アゴヒゲさんは農機具の購入資金が必要で、銀行融資の審査待ちの間のつなぎ資金として500,000円を必要としています。
このステップでは、貸付金の実行・利息の受取・元本の回収という3つの取引を通じて、投資キャッシュ・フローの基本と「小計の下」の構造を学びます。固定資産のような取得・売却損益の複雑さがないため、投資キャッシュ・フローの軽い導入になります。
3-1. 貸付条件
各期の受取利息は 500,000 x 2% = 10,000円/年です。
3-2. 仕訳とCFへの影響
(a) 貸付金の実行(X1期首)
現金が500,000円減少します。この支出は営業活動ではなく、余剰資金の運用という投資活動です。
連結CF実務指針8項は、投資活動によるキャッシュ・フローとして「貸付けによる支出」「貸付金の回収による収入」を例示しています。貸付金は有価証券や固定資産と並ぶ投資活動の代表項目です。
(b) 受取利息(X1期末・X2期末)
受取利息は損益計算書の営業外収益に計上されます。現金も10,000円入ってきます。しかしキャッシュ・フロー計算書上の扱いは少し複雑です。ここで初めて「小計の下」という構造が登場します。
なぜ2ヶ所に書くのでしょうか。営業キャッシュ・フローの「小計」は、本業(リンゴの販売)から生み出した純粋な営業キャッシュを示す金額です。受取利息は本業の稼ぎではなく、余剰資金の運用成果です。だから小計を計算する段階では、税引前利益に含まれている受取利息を一旦取り除きます。そのうえで、小計の下に「実際に受け取った利息額」を別途加算して、営業キャッシュ・フロー全体には含めます。
この方式は、利息・配当金の表示区分に関する実務指針の方法1に基づいています(Q3-7参照)。実務上、方法1を採用する企業が多数派です。この「小計の上で除外 → 小計の下で現金ベースの実額を表示」という2段階パターンは、Step 4(支払利息)、Step 6(法人税等)でも再登場します。
(c) 貸付金の回収(X3期首)
元本500,000円が返済され、現金が増加します。
投資キャッシュ・フローでは、貸付けと回収をそれぞれ総額で表示します(連結CF作成基準 注解(注8))。たとえX1期に貸付500,000と回収200,000があったとしても、純額300,000とは書かず、支出△500,000と収入+200,000の2行に分けます。
3-3. 受取利息の受取額計算 — 「損益計算書損益 +- 貸借対照表増減 = 現金受取額」
受取利息の場合、損益計算書計上額と現金受取額が一致しないケースがあります。未収利息(経過勘定)が存在する場合です。
この公式は「損益計算書計上額 +- 貸借対照表経過勘定の増減 = 現金ベースの受取額」という構造です。未収利息がある場合、PL計上額と受取額に差額が生じます。前述の2段階表示で見ると、小計の上でPL額△10,000を除外し、小計の下で受取額+7,000(=PL額を未収利息で調整した金額)を加算する形になります。
本ケースでは各期末に利息を現金で受け取っているため未収利息は発生せず、受取額=PL計上額=10,000で一致します。Step 4の支払利息、Step 6の法人税等でも同じ公式が登場します。
3-4. CFWSの更新
作成手順5ステップに沿って、CFWSを更新します。
ステップ(1) 年次推移表の確認
b_年次推移表 のExcelファイルを開いてください。短期貸付金・長期貸付金・未収利息が貸借対照表に、受取利息が損益計算書に追加されます。
ステップ(2) 取引モジュールの確認
a_取引モジュール のExcelファイルを開いてください。
ステップ(3) CFWSへの転記
c_CFWS のExcelファイルを開いてください。
CFWSを開いたら、まず上半分の精算表エリアを見てください。左端にBS科目が並び、右にCF区分の列が広がっています。
短期貸付金の行を見ましょう。BS増減は+1,000,000です。この金額は「短期貸付けによる支出」列に1,000,000と転記されています。符号が逆転するのは、BS増減が「資産の増加=正」なのに対し、CFは「現金の流出=負」だからです。check列は「−」(ゼロ)で整合しています。
長期貸付金も同様です。BS増減+2,000,000が「長期貸付けによる支出」列に2,000,000と転記されます。check列ゼロ。
未収収益_未収利息の行を見てください。BS増減は+10,027(期首ゼロ → 期末10,027)。この金額は「受取利息及び受取配当金」列に10,027と振り分けられています。未収利息は経過勘定なので、受取利息の2段階表示のなかで処理されます。check列ゼロ。
次に下半分のCF計算書エリアを見ましょう。精算表の列合計が、そのままCF計算書の各行に集約されています。
- 税引前当期純利益 25,083 — 繰越利益剰余金のBS増減から転記
- 受取利息及び受取配当金 △25,083 — 小計の上でPL受取利息を除外
- 小計 0 — 本業のキャッシュはゼロ(このステップでは営業取引がないため)
- 利息及び配当金の受取額 +15,056 — 小計の下で現金ベースの受取額を加算
- 営業CF 15,056
- 短期貸付けによる支出 △1,000,000
- 長期貸付けによる支出 △2,000,000
- 投資CF △3,000,000
- 株式の発行による収入 +3,000,000(Step 1で計上済み)
- 財務CF +3,000,000
最終行のcheck列がゼロであれば、精算表は完成です。期末現金残高は15,056となり、BS上の普通預金と一致します。
3-5. Step 3のまとめ
このステップで学んだことは3つです。
第一に、投資キャッシュ・フローの基本構造。貸付けと回収を総額で表示すること。
第二に、「小計の上と下」の2段階表示。小計は本業の営業キャッシュを示すため、利息のような営業外項目は一旦除外し、小計の下で現金ベースの実額を別途表示すること。
第三に、「損益計算書損益 +- 貸借対照表経過勘定増減 = 現金ベースの受取(支払)額」という公式。未収利息がある場合、PL計上額と受取額に差額が生じます。Step 4以降で経過勘定が絡むケースが本格的に登場します。
Step 3で追加された全項目を反映したCF計算書の全体像です。