CF精算表ステップ学習
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基礎知識3. CF精算表(CFWS)と作成手順

基礎知識2では、間接法で営業キャッシュ・フローを計算し、投資・財務キャッシュ・フローは取引の総額で把握することを学びました。このページでは、これらの情報を整理してキャッシュ・フロー計算書を組み立てるための作業シート「CF精算表(CFWS)」の構造と作成手順を解説します。

なぜ精算表が必要か

CF計算書を作るには、BS・PLの数字だけでは足りません。基礎知識2で見たとおり、営業CFはBS増減と間接法の調整で計算できますが、投資CFと財務CFは取引の総額が必要です。

具体的に考えてみましょう。クチヒゲ商事株式会社の長期借入金が期首2,000千円→期末4,400千円に増えたとします。BS増減は+2,400千円ですが、この中身は「新規借入+3,000千円」と「返済△600千円」かもしれません。BS増減だけを見ていたら、この内訳は分かりません。

こうした内訳を整理し、BS増減と3区分のCFが矛盾なくつながっていることを検証するための作業シートがCF精算表(CFWS: Cash Flow Worksheet)です。CFWSは簿記の精算表と同じ発想で、「左側(BS増減)と右側(CF3区分)の合計がゼロになれば整合OK」という仕組みです。

CFWSの構造

CFWSは次のような横長のシートです。

CFWSの構造 — BS増減を3区分に振り分けるワークシート

構造のポイントは3つです。

左側: BS増減(年次推移表から転記)

各BS科目の期首残高、期末残高、増減額を並べます。この増減額が「何によって生じたか」を右側で説明します。

右側: 3区分への振り分け

BS増減を営業CF・投資CF・財務CFのいずれかの列に振り分けます。営業CFに該当する科目(売掛金、商品、買掛金など)はBS増減をそのまま転記します。投資CF・財務CFに該当する科目(固定資産、借入金など)は、BS増減ではなく取引モジュールから総額を転記します。

check行: 整合確認

各行の「BS増減」と「営業CF + 投資CF + 財務CF」の差額がゼロになっていれば、振り分けは正しいと確認できます。最下段のcheck行では列全体の合計がゼロかどうかも検証します。check行がすべてゼロ——これがCFWSのゴールです。

3つのExcelファイル

この教材では、CFWSを作るために3つのExcelファイルを使います。

3つのExcelファイル — 取引モジュール、年次推移表、CFWS

3つのファイルは次のように連動します。

3つのファイルの連動 — 取引モジュール→年次推移表→CFWS

取引モジュールは2つの役割を果たします。1つ目は年次推移表の元データとなること(仕訳を積み上げてBS/PLを作る)。2つ目はCFWSに投資CF・財務CFの総額を直接提供することです。

3つのExcelファイルを開いてみよう

ここから先の学習では、毎回3つのExcelファイルを実際に操作していきます。まだ中身を理解する必要はありません。「こういう見た目のファイルを使うのか」とイメージを持ってもらえれば十分です。Step 1で実際にデータを見ながら手を動かすときに、この予備知識が効いてきます。

a_取引モジュール — 資本政策シート

1つ目のExcelファイルは「取引モジュール」です。各ステップで追加する取引の入力変数と、取引のタイムラインが並んでいます。下の例はStep 1(会社設立)のものです。

a_取引モジュール -- 資本政策シート
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上半分の「入力変数」には、会社名・口座名・資本金組入比率などのパラメータが青字で入っています。青字はハードコード値(手入力した値)、黒字は数式(他のセルから計算された値)です。この色分けは全ファイル共通のルールです。

下半分の「資本政策タイムライン」には、各ラウンド(設立・増資等)の発行条件と、累計の資本金・株数が横に並んでいます。Step 1ではデータが「設立」の1行だけですが、株主資本が複雑になれば行が増えていきます。

a_取引モジュール — MFインポート仕訳シート

同じExcelファイルの2枚目のシートには、マネーフォワード形式の仕訳データが入っています。

a_取引モジュール -- MFインポート仕訳シート
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1つの仕訳が複数行に分かれています(複合仕訳の場合、借方・貸方がそれぞれ別行になります)。「取引No」が同じ行は同一仕訳です。この仕訳データが年次推移表の元データになり、投資CF・財務CFの総額を把握する根拠にもなります。

b_年次推移表

2つ目のExcelファイルは「年次推移表」です。仕訳データからBS/PLの各科目を年度別に集計したものです。

b_年次推移表
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列方向に年度(2022年度、2023年度…)が並び、行方向にBS科目が並んでいます。最下行のcheck行は「資産の部合計 − 負債・純資産の部合計」を計算しており、ゼロ(「−」表示)なら貸借一致が確認できます。Step 1では取引が設立出資だけなので、全年度とも同じ数字が並んでいます。

c_CFWS(精算表)

3つ目のExcelファイルがCF精算表(CFWS)です。年次推移表のBS増減を営業CF・投資CF・財務CFの3列に振り分ける作業シートです。

c_CFWS(精算表)
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上半分がCFWSの本体です。左側にBS科目の期首残高・期末残高・増減、右側に3区分のCF列が並んでいます。最右列の「合計」列がcheck行で、BS増減とCF列の合計の差額を表示します。すべて「−」(ゼロ)なら振り分けが正しいことを意味します。

下半分にはCFWSから組み立てたCF計算書が表示されています。Step 1では営業CFと投資CFはゼロ、財務CFに「株式の発行による収入 3,000,000」の1行だけがあります。

なぜ3ファイルに分けるのか

1つのExcelファイルに全部入れることもできますが、あえて3つに分けているのには理由があります。

第一に、役割の明確化です。a(元データ)→ b(集計)→ c(分析)という流れが、ファイル名を見ただけでわかります。CF計算書を作る流れは「データの準備 → 推移の把握 → 3区分への振り分け」という段階を踏みます。ファイル構成がそのまま作業手順に対応しているのです。

第二に、論点ごとの比較がしやすくなります。Step 1の取引モジュールとStep 4の取引モジュールを並べて開けば、「株主資本だけの会社」と「借入金が加わった会社」の違いが一目でわかります。

第三に、総合演習への橋渡しです。Step 7の総合演習では、Step 1〜6の論点がすべて入った取引モジュールから、年次推移表とCFWSを自力で組みます。3ファイル構成に慣れていれば、演習でも同じ流れで進められます。

作成手順5ステップ

CF計算書を作る手順を5つのステップにまとめます。この手順はStep 1からStep 6まで、毎回同じ流れで使います。

作成手順5ステップ

この5ステップの中で最も大切なのはステップ(4)です。CFWSに年次推移表からの参照を作り、各BS科目の増減を営業CF・投資CF・財務CFのいずれかに振り分けます。営業CFは「BS増減+間接法の調整」で計算するのに対し、投資CF・財務CFは「取引モジュールから総額を参照」する。この違いを意識し続けることがCF計算書を作るうえでの要です。

これからの学習の進め方

次のStep 1からは、クチヒゲ商事株式会社に取引を1つずつ追加しながら、毎回この5ステップでCFWSを更新していきます。

Step 1〜6の学習ロードマップ

Step 1では、先ほど示したCF計算書のひな型のうち1行しか使いません。最初から全体を暗記する必要はありません。ステップごとに「今回はこの行が増えた」と確認していくうちに、最終的にはひな型全体が自然と読めるようになっています。