7-1. 総合演習の役割
Step 1〜6では、論点を1つずつ追加しながらCFWSを更新してきました。毎回のStepで新しい行は1〜2行しか増えなかったので、迷うことは少なかったはずです。
総合演習では、Step 1〜6で積み上げたCFWSの完成形をベースに、全論点が同時に入った状態でCFWSを自力で組みます。新しい知識は一切不要です。Step 1〜6でやったことの総まとめです。
7-2. CFWSの成長マップ — 全体の振り返り
総合演習に入る前に、Step 1〜6で追加してきた行を一覧で確認します。
完成形のキャッシュ・フロー計算書には、この表の全行が入っています。総合演習で扱うのはこの完成形そのものです。飛躍はありません。
完成形のCFWSを確認しましょう。まず b_年次推移表 のExcelファイルを開いてください。Step 1〜6で追加してきた全科目の貸借対照表残高と損益計算書数値が一覧できます。
次に a_取引モジュール のExcelファイルを開いてください。全論点の取引が入った状態の仕訳一覧です。
c_CFWS のExcelファイルを開いてください。
check列がすべてゼロ(「−」表示)になっていることを確認してください。この精算表が、演習A〜Dの模範解答の基礎になります。
7-3. 「損益計算書費用 +- 貸借対照表増減 = 現金支払額」の公式 — 4回の登場
Step 3〜6で繰り返し使ってきた公式を整理します。
4回とも構造は同じです。損益計算書で認識された金額に、期首の貸借対照表残高を足し、期末の貸借対照表残高を引く。これで実際の現金支出(または受取)額が求まります。なぜこうなるかといえば、期首に残っていた未払分は当期中に支払われ(プラス)、期末に残っている未払分は翌期以降の支払い(マイナス)だからです。
この公式を理解していれば、新しい科目が出てきても応用できます。
7-4. 演習の構成
総合演習は4段階で構成されています。演習A〜Cが基本演習、演習Dが発展演習です。段階的に足場を外していくことで、最終的には取引モジュールだけから全工程を自力で回せるようになります。
演習A: CFWS穴埋め
渡すもの: X1期の取引モジュール(仕訳一覧)、年次推移表(貸借対照表増減額は転記済み)、CFWSテンプレート(科目名・列見出し・貸借対照表増減は記入済み、CF列が空欄)
やること: 取引モジュールを参照しながら、CFWSの営業CF・投資CF・財務CF列の数字を埋めます。科目名も列見出しも用意されているので、「どの数字をどこに入れるか」だけに集中できます。
ポイント: 投資キャッシュ・フロー・財務キャッシュ・フローは取引モジュールから総額を転記します。営業キャッシュ・フローは貸借対照表増減から間接法で導出します。check行が全行ゼロになることを確認してください。Step 1〜6で6回やった作業と同じです。ただし全論点が同時に入っているだけです。
演習B: CFWSを自力で作る
渡すもの: X1期の取引モジュール、年次推移表、空のCFWSテンプレート(check行の数式だけ入っている)
やること: 科目名をCFWSに記入するところから始めます。「この科目はどのキャッシュ・フロー区分に振り分けるか」を自力で判断し、貸借対照表増減の転記からCF列の記入までを行います。
ポイント: 演習Aとの違いは「科目の振り分けを自分で考える」ことです。迷ったら「この取引はどの活動の結果か?」と考えてください。営業活動なのか、投資活動なのか、財務活動なのか。Step 1〜6でどの区分に分類したかを思い出せば判断できます。
演習C: 全工程自力
渡すもの: X2期の取引モジュール(仕訳一覧)のみ
やること: 仕訳一覧から年次推移表を自分で作り、年次推移表からCFWSを作り、CFWSからキャッシュ・フロー計算書を組み立てます。作成手順5ステップの全工程を自力で回します。
ポイント: Step 1〜6で6回やった「取引モジュール → 年次推移表 → CFWS → キャッシュ・フロー計算書」の流れを、補助なしで実行します。仕訳一覧から貸借対照表・損益計算書の残高を集計する作業が加わりますが、簿記3級の知識があれば問題ありません。
演習D: 5年度通し(発展)
渡すもの: 5年度分の取引モジュール+年次推移表
やること: X1期〜X5期の各年度についてCFWSを作り、5年間のCF推移を分析します。
ポイント: やっていることは演習B/Cの5回分です。新しい知識は不要です。ただしX4期は固定資産の売却損が発生する年度です。Step 5で学んだ「売却損の加算(営業キャッシュ・フローから投資活動の結果を除外)」を正しく適用できるかが試されます。
check行が全年度ゼロなら正解です。模範解答のCFWSと突合して検算してください。
7-5. 演習で確認すべきチェックポイント
すべての演習に共通する確認項目です。
営業キャッシュ・フロー小計上:
- 税引前利益をスタートにしているか
- 減価償却費を加算しているか(非資金損益項目)
- 固定資産売却損益を調整しているか(売却損は加算、売却益は減算)
- 受取利息を減算しているか(小計下で別途表示するため)
- 支払利息を加算しているか(小計下で別途表示するため)
- 売上債権・棚卸資産の増加を減算しているか
- 仕入債務の増加を加算しているか
営業キャッシュ・フロー小計下:
- 利息及び配当金の受取額を記載しているか
- 利息の支払額を記載しているか
- 法人税等の支払額を記載しているか
投資キャッシュ・フロー:
- 有形固定資産の取得による支出を総額で記載しているか
- 有形固定資産の売却による収入を記載しているか(売却収入であり帳簿価額ではない)
- 貸付けによる支出・回収による収入を総額で記載しているか
財務キャッシュ・フロー:
- 株式の発行による収入を記載しているか
- 長期借入れによる収入を総額で記載しているか
- 長期借入金の返済による支出を総額で記載しているか(貸借対照表純額ではない)
- 配当金の支払額を記載しているか
整合確認:
- check行が全行ゼロか
- 営業キャッシュ・フロー + 投資キャッシュ・フロー + 財務キャッシュ・フロー = 現金及び現金同等物の増減額か
- 現金増減額 + 期首現金残高 = 期末現金残高か
7-6. 総合演習完了時の到達点
基本演習(A〜C)を終えた段階で、以下ができるようになっています。
- 取引モジュール(仕訳一覧)と年次推移表から、CFWSを自力で作れる
- 貸借対照表科目を営業・投資・財務の3区分に正しく振り分けられる
- 投資キャッシュ・フロー・財務キャッシュ・フローを取引の総額で把握し、貸借対照表増減の純額と混同しない
- 間接法の調整項目(非資金損益項目、売却損益の除外、運転資本増減、2段階表示)を理解して適用できる
- check行ゼロで整合性を検証する習慣がついている
発展演習(D)まで完了すれば、複数年度にわたるCFWSを作り、CF推移の分析まで対応できます。
「取引モジュール → 年次推移表 → CFWS → キャッシュ・フロー計算書」。この全工程を自力で回せること。それがこの教材の最終到達点です。
参考: 書籍対応表
本解説で扱った論点と、書籍の設問番号の対応は以下のとおりです。著作権に配慮し、書籍の文章は転記していません。本解説で使用している数値例はすべてオリジナルです。
Q5-26の補足: 製造業では売上原価に含まれる減価償却費があります。キャッシュ・フロー計算書に記載する減価償却費は当期の発生額を使います。棚卸資産の増減で調整されるため、売上原価に含まれる額ではなく発生額が正しい数字です。クチヒゲ商事株式会社は販売業(八百屋)なので、この論点は直接関係しませんが、実務では重要です。